お知らせ
ご家族・患者の方へ
徳島大学精神科について
新人募集

QOLグループ

【統合失調症患者のQOL、認知機能研究】

 統合失調症患者さんでは、幻覚・妄想といった陽性症状、感情的引きこもり・自閉とい った陰性症状、記憶障害・注意力(集中力)低下をはじめとする認知機能障害、あるいは 不安・抑うつ症状など多彩な症状が認められます。

 陽性症状は治療薬である抗精神病薬が有効であることもあり、かつては統合失調症の研 究や治療は陽性症状が重視されていました。ところが、治療により陽性症状を抑えること が出来ても、陰性症状や認知機能障害など他の症状のために、仕事に就けず、家で無為 に過ごしてしまい、社会復帰が出来ない患者さんが多数存在します。そのため、最近では、 疾病を持ちながらも心理的・社会的により健康的な生活が送れるようにという観点から、 患者さんのQOLやQOLに大きく関連するとされる認知機能障害が注目されるようになっ てきています。

 このような流れの中、私たちの研究では、主に種々の評価尺度や心理検査を用いて、患 者さんのQOLや認知機能や社会機能、精神症状との関連を検討しています。これまでの主 な研究成果としては、以下のものがあります。

 患者さんの本人の主観的QOL(SQLSという評価尺度で評価)と評価者による客観的 QOL(QLSで評価)との関係を検討したところ、両者の相関はあるもののきわめて弱く、 主観的QOLと客観的QOLに最も影響を及ぼしている因子は、それぞれ抑うつ症状と陰性 症状であることが明らかになりました。この結果は一言にQOLと言っても、主観的QOL と客観的QOLとでは、乖離があり、両者の主な予測因子も異なっていることを示しており、 QOL評価には、両者を相互補完的に利用すべきであると私たちは考えています。

 また患者さんの社会復帰やリハビリテーションには患者さんの日常生活における生活技 能の評価も重要になってきます。そこで私たちは患者さんの日常生活における生活技能(会 話や身だしなみの状態などをLSPで評価)とQOLとの関連を検討しました。その結果、 生活技能は高いほど、主観的QOLも客観的QOLの両方とも良好であることがわかりまし た。さらに生活技能に最も影響を与えている因子は、陰性症状と抑うつ症状であることが わかりました。この結果はQOLや生活技能の向上という観点から見ると、かつて治療の主 なターゲットとされてきた陽性症状ではなく、抑うつ症状と陰性症状に対する治療が重要 である事を示唆しています。

 さらに私たちは、認知機能(BACSという包括的な認知機能テストバッテリーで評価) と客観的QOL(QLSで評価)の関係を検討しました。その結果、全体として、認知機能は 客観的QOLと有意な正の相関がみられました。また客観的QOLに独立して影響を与える 因子として、陰性症状、抑うつ症状さらにBACSの「注意と情報処理のスピード(認知領 域の一つ)」が認められました。なお、主観的QOLと認知機能の関係の検討では、両者に はほとんど有意な相関が認められませんでした。これらの結果は、認知機能が良好なほど、 他者が評価するQOLは良好ですが、必ずしも患者さん自身が考えるQOLは良好ではなく、 本人さんは生活の状態に満足していない可能性を示唆しており、一見充実した生活を送っ ている患者さんであっても、その心理状態(特に抑うつ症状など)に注意とケアが必要な ことを物語っています。またQOLの改善には、抑うつ症状と陰性症状が重要であることを 再確認することとなりました。

 以上がこれまでの主な研究内容です。QOLや生活の満足度など患者さん本位のアウトカ ムが重要視され、その改善ための方法論が少しずつではありますが、解明されてきている ことがお分かりになっていただけたかと思います。現在、私たちは、MCCBというBACS よりもさらに包括的に認知機能を評価できるテストバッテリーを使用し、患者さんの病識 と認知機能、QOLなどの関係を検討しています。病識の欠如は、患者さんが治療を中断す る主な要因で、予後の悪さと関連性が高いと言われており、これらの関係を検討すること で、さらに統合失調症患者さんへの理解が深まり、アウトカム(=最終的には患者さん自 身と患者さんに関わる人すべての幸福)の改善に少しでも貢献出来たらいいなと考えてい ます。

ページトップへ戻る
Copyright(C) Since 2012 徳島大学病院精神科神経科 All rights reserved